順向性標識とその逆向きである逆向性標識は、蛍光色素を用いて神経の接続を追跡することができる研究法である。このトレーサー分子は、神経支配標的組織へ投与することで神経線維の連絡を神経終末から、その元へ向かって追跡したり、順行と逆行の両方向から直接神経線維を標識することができる。この方法の限界は軸策輸送の遅さにあり、ヒトの単一神経を標識するのに時間を要してしまう。
米国、カリフォルニア大学サンディエゴ校、薬学部のMichael Whitneyたちは、この古い生体内神経可視化法の限界を超える新しいシステムを考案した。彼らはファージディスプレー法を用いて非神経組織に比べて末梢神経組織に優先的に結合する蛍光標識ペプチドを開発し、10倍にいたるコントラストをつくりだした。
ファージディスプレーによりマウスの摘出抹消神経組織または精製ミエリン塩基性蛋白に対してin vitro選択されたペプチドの配列は次のようになった:NTQTLAKAPEHT (NP41), KSLSRHDHIHHH (NP40), DFTKTSPLGIH (NP42). NP40との類似性から、ただ一つの配列、AHHNSWKAKHHS (NP38)がin vivoで選択された。
選択されたペプチドはfluorescent-5(6)-carbonyl group (FAM)標識物として合成され、マウスに経静脈的に投与された。研究者たちは注射2?4時間後に神経と筋とのコントラストが評価した。すべての末梢神経が2時間以内に描出され、近接の非神経組織とのコントラストは8時間に至るまで維持された。中枢神経は蛍光物質を取り込まず、おそらくどのペプチドも血液脳関門を通過できなかったものと考えられた。
さらに、この蛍光標識された神経の活動、およびマウスの行動への影響はみられなかった。重要なことは、全身投与後のペプチドの生体内分布を検討した結果、ペプチドは効果的に代謝されていたことだった。大半の蛍光物質は腎臓に集積し尿中へと排泄されることが確認された。
さらに、傷んだ神経を接合し予後を改善するための術中操作をガイドするために、健全な神経のみでなく傷害された神経をも標識できることは臨床的に重要である。したがって、この新しい方法は筋電図が神経を検知しないときには、治療法として有用である。唯一の制限は、ペプチド投与前に、手術によって神経栄養血管を傷害することで血管の遮断が起こり、蛍光ペプチドの神経への取り込みが減少するかもしれないことである。
科学者たちはこれらペプチドがヒトの神経を標識する能力も評価したところ、ヒトの組織サンプルを使っても、マウスの神経と同じ結合パターンを観察した。ただし、実際にヒトに投与する前には、さらにテストが必要ではあると思われる。
静脈注射可能な蛍光ペプチドで神経を標識し、外科医に術中、神経の分布を知らせるこの方法によって、現在入手可能な蛍光トレーサーの限界を乗り越えることができる。したがって不慮の神経切断や傷害による、しびれ、疼痛、脱力、麻痺といった傷害発生のリスクを低減することができる。Michael Whitneyたちは「我々は最終的にはこの蛍光標識プローブを用いて神経を可視化することはルーチンになるだろうと信じている。そして、術中の不利益な傷害の発生を減らし、外傷後の神経の同定と修復を改善することで、患者の予後をよくするだろう。」と述べている。実際、彼らはヒトへの臨床応用への準備に向けて、動物モデルでこれらプローブの更なる改良を続けていくだろう。
